たまに「ドッグフードの成分表に塩が入っているからランクの低いフード!」と決めつけて書いているランキング系のサイトを見かけますが、犬のことを本当に理解しているのかな?と不安になります。
いろいろなサイトを拝見していて、ちょっと思うところがあったので記事にしてみました。
少し長いですが、おつきあいください。
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犬に塩分は本当に悪者なのか?
ドッグフードに入っている塩は、「腐敗を抑えるため」「嗜好性を高めるため」だと言われていて、塩=粗悪なフードに入っているものと考える方がいます。
本当に犬に塩分は必要ないのでしょうか。
※健康な成犬を条件として、各種情報を調べています。またドッグフードは、一般的に塩ではなくナトリウムと表示されます。
嗜好性を高める塩分とは?
塩で嗜好性を高めるということですが、犬は塩分に鈍感だということをご存知ですか?
犬の嗜好性を高めるのであれば、なんといっても匂い!次に食感だと言われています。
確かにドッグフードに塩分を入れることで嗜好性はあがると言えますが、嗜好性を高めることを目的とするのであれば、犬の場合は甘味です。
腐敗を抑える塩分とは?
腐敗を抑えるために塩を入れている云々については、正直意味がよくわかりません。
市販されているドッグフードの多くは、高温で加熱処理されていますので、その製造工程で菌は死滅するはずです。
腐敗した材料を使うようなドッグフードメーカーが、高熱処理することで菌が死滅するにも関わらず、コストをかけて塩をわざわざ入れる意味はないと思うのですが・・。
犬は汗をかかないから塩分は危険?
確かに犬は汗をほとんどかきませんが、犬も人も摂取した塩分の多くを尿で排出しています。
また犬は塩分排泄能力が人より遥かに高いと言われています。
「犬は汗をかけないから塩分を排出できない」と記載されたサイトがあった場合、書かれている情報はかなり怪しいと思ったほうがいいと思います。
犬に塩分をあたえたら病気になる?
過分に塩分をあたえすぎると、腎臓疾患・心臓疾患などの病気になるリスクが高まります。
だからと言って、塩分を全くあたえないことにつなげていいわけがありません!
生命維持に必要不可欠な塩分が不足することで、運動障害や嘔吐、体重減少や腎臓疾患などの病気になると言われていて、最悪の場合は死亡するケースもあります。
要は適切な量の塩分を摂取させることが大切ということ。
※過去には塩分の過剰摂取による高血圧のリスクが指摘されていましたが、多くの研究で高血圧は認められないという報告があがっているようです。
犬の塩分不足で現れる症状
- 足の裏を頻繁に舐める
- 人の手足を舐める
- コンクリートや土、オシッコを舐める
犬にこんな症状が出た場合、塩分が不足しているかもしれません。
塩分欠乏でよく聞くのは、犬のご飯を手作り食にしているケース。
材料自体に含まれている塩分だけで十分と考えて、塩を全く使用しないレシピで作られている方は栄養分をチェックしたほうがいいでしょう。
犬に必要な塩分量とは?
犬に必要な塩分量について考えていきたいと思います。
ナトリウム(塩)の役割
ナトリウムはカリウムと共に体内の水分バランスや細胞外液の浸透圧を維持し、アミノ酸などの栄養素の吸収・運送に関与している、ミネラルバランスを経つもためには不可欠なものです。
犬に必要な塩分量|ナトリウムの基準量とは
AAFCO(米国飼料検査官協会)の基準で定めるナトリウムの基準量は、乾物量で成長期0.3%、成犬0.08%以上(古いデータでは0.06%以上)とされています。
FEDIAF(欧州ペットフード工業連合会)では、ナトリウムの基準値は0.1%以上です。
AAFCO・FEDIAF共にナトリウム摂取量の上限値は不明です。
AAFCO(米国飼料検査官協会)とは
AAFCO(アフコ)はアメリカの団体で、ペットフードの栄養基準のガイドラインを制定しており、日本のペットフード公正取引協会でもAAFCOの栄養基準を採用しています。
このガイドラインは最低限のルールを示したものです。
基準を満たしているからと言って、安全なフードだと決めつけることはできません。
欧州にも同じような団体FEDIAF(欧州ペットフード工業連合会)がありますが、AAFCOの栄養基準ガイドラインをベースにしていると言われています。
あくまでもガイドラインとなる栄養基準を設け、模範的規則を提示しているだけでAAFCOがペットフードの品質を取り締まっているわけではありません。
またAAFCOの構成メンバーはペット業界の代表が名を連ねており、ペット業界と深い繋がりがあることで知られています。
公表されているデータもペット業界よりとも言われていますので、NRC(全米研究評議会/米国科学アカデミー)の公表データを信頼したほうがいいと考えてます。
※AAFCO構成メンバー例: ペットフード製造業者、AAHA(米国動物病院協会)、アメリカ・カナダ獣医師会など
AAFCO 2016年度版 栄養基準値(1997→2016年比較)
AAFCOのサイトでは見つけることができませんでしたので、海外のサイトでみつけた日本の文献の画像を添付します。
もっと詳しく内容を確認したい方は、下記URLを開いていただければ文献PDFが開きますので読んでみてください。(日本語)
FEDIAF 2017年度版 栄養基準値
FEDIAFは2017年に、栄養基準ガイドラインが改定されていました。
下記のサイトからPDFをダウンロードすることができますので、興味がある方はどうぞ。(英語)
http://www.fediaf.org/self-regulation/nutrition/
なぜナトリウム(塩)の栄養基準値の最大値が設定されていないのか?|推測
犬に最適な塩分量を知りたいのに、AAFCO・FEDIAFの栄養基準ガイドラインを見ても、最小値の記載はあっても最大値が書かれていません。
リンやカルシウムには上限値が記載されているのに、何故ナトリウムにはないのでしょうか?
リンの過剰摂取は腎臓に負担をかけ、カルシウムの過剰摂取は特に成長期の犬の骨・軟骨の育成に悪影響を与えると言われています。
過剰摂取することで大きな障害が発生するリスクが高い、そのために制定された最大値だと考えられます。
ではナトリウムに最大値がないのはなぜか?
犬に塩分排出能力が高いと言われています。
最大値を明記しないのは、塩分を多少多く摂取しても障害として現れるリスクが低いのではないか、不足するほうが問題と考えているのではないか、と推測しています。
※あくまでも個人的推測(ひとりごと)です。
[紹介]ミネラルの機能と過剰・欠乏がもたらす効果|小動物の臨床栄養学より
犬の勉強のために購入した「小動物の臨床栄養学」には、以下のように書かれています。
ミネラルの機能と過剰・欠乏がもたらす効果(一部抜粋)
ミネラル | 機能 | 欠乏 | 過剰 |
カルシウム | 骨や歯の構成成分、血液凝固、筋肉作用、神経伝達など | 成長抑制、食欲低下、骨の石灰化の抑制、跛行、自然骨折、痙攣など | 食餌効率と摂取食餌量の低下、ネフローゼ、跛行など |
リン | 骨や歯の構成成分、筋肉形成、脂肪・炭水化物・蛋白代謝など | 食欲減退、異食症、成長抑制、生殖能力の低下、自然骨折など | 骨の損失、尿石、体重増加の抑制、軟組織の石灰化など |
ナトリウム/クロール(塩化物) | 浸透圧、神経刺激伝達、栄養接収、老廃物排泄など | 水分調整が維持できなくなる、成長抑制、食欲不振、疲労など | 良質な水を適量飲むことができない場合にのみ発症 のどの渇き・痒み・便秘・発作。死亡 |
私は専門家ではないので、なかなか理解できずに頭を抱えつつ読んでいます。
「小動物の臨床栄養学」は、amazonなどでは販売していませんが、非常に優れた内容で読み応えがあります。
お値段が馬鹿高いのが難点ですが、興味があれば図書館などで探してみてください。(現在は第五版)
ちなみに重さが約4Kgあるので、膝の上に乗せて読むのはある意味拷問です。
※画像出典:田舎の本屋さん
NRC(全米研究評議会/米国科学アカデミー)の犬の栄養要求量
少し古いデータになりますが、NRCが犬の体重1kgあたりの栄養要求量データを公表していましたので紹介します。
※こちらより画像拝借しました。(日本語)
http://www.saltscience.or.jp/symposium/2006_2.hayashi.pdf
これをみると、成犬だと体重1kgあたりの1日のナトリウム量は 0.242gです。
書籍「小動物の臨床栄養学」では、NRCなどのデータを元にした推奨値および許容量がデータ化されています。
推奨食餌許容量に幅があるのは、運動量や犬の疾患・年齢などの個体差で調節すべきということでしょうか。
- 成犬の1日栄養素摂取量の推奨値: 50㎎/kg
- 成犬の1日あたりの推奨食餌許容量: 25〜50㎎/kg
犬と人間の塩分摂取量の違い
WHO(世界保険機関)が推奨する人間の1日の塩分量の目標値は5g未満、厚生労働省の目標値は男性8g/女性7gと言われています。
犬と比較するため、以下の計算式に当てはめて考えてみます。
成犬 60kgの1日の摂取量は、50mg×60kg=3000mgとなります。
これを以下の計算式に当てはめて計算すると、1日に必要な塩分量が算出できます。
3000mg×2.54÷1000=7.62gの塩分量となり、成人男性 60kgとして考えた場合人も犬も塩分の推奨量に大きな差がないことが分かります。
ナトリウムを塩に変換する計算式: ナトリウム量(mg)×2.54÷1000=食塩相当量(g)
犬の手作り食の難しさ
犬にとってお肉をふんだんに使った手作り食が一番のごちそうであり、素材の栄養分もドッグフードは遠く及ばないものだと理解はしています。
ですがなかなか手作り食には手が出しにくいため、以前からドッグフード+トッピング(肉、さつまいも、ヤギミルクなど)をあたえています。
手作り食の難しさは、栄養分のバランスが良いご飯をつくること。
例えば、カルシウム:リンの比率はAAFCOでは1:1、NRCでは1:1.22 (NRC1977データより概算)がベストとされています。
手作り食でリンの含有量が豊富な肉中心のご飯をあたえると、慢性的なカルシウム不足になります。
カルシウムが不足すると、犬は自らの骨などからカルシウムを取り出して補おうとするので、骨が脆くなってしまう弊害がおきます。
またミネラル間には相互作用が存在しますから、バランスが最も重要とされています。
そのバランスをうまく取れるかどうか自信がないので、なかなか手作り食に手を出せないでいます。
ドッグフードの塩分は適正値なのか?
こんな検索上位に位置しないサイトにまでたどり着いた方は(ありがとうございます)、愛犬に質の高いフードをあたえたいと考えられているはずです。
皆さんが情報を収集してまで購入しようとしているドッグフードは、AAFCOなどの栄養基準ガイドにそって、最小値以上のナトリウムを入れている可能性が高いと思います。
ドッグフードには必ずラベルがついています。
まずはご自身の犬の体重や疾患、運動量・年齢にあわせて給餌量を算出し、ナトリウム量を出してみることをおすすめします。
実際に多くのドッグフードのラベルをみましたが、ドッグフードに含まれるナトリウムの含有量は考えてたより少なめだなと感じます。
犬にあたえるナトリウム量には、諸説ありますので断言はできません。
それを踏まえた上でも、ドッグフードのナトリウムは生命維持する最小限の含有量に近いのではないか、健康な成犬にとってはナトリウムが不足がちとも言えるのではないか?と考えています。
私と同じようにドッグフードだけではナトリウム(塩分)が少ないと思う方は、追加でお肉のトッピングなどしてみて工夫してみてはいかがでしょうか。
カルシウム不足が気になる場合は、ミルクの追加が良いと思います。
ドッグフードのナトリウム(塩)表示を恐れる必要はない
特定の商品を推すランキングサイトでは、「ドッグフードの原材料に含まれる塩分だけで「塩」の添加は一切不要だ」と言い切っているサイトが目立ちます。
ランキング上位のドッグフードを購入させるために、「塩=悪者」と極端に表現して不安をあおり、サイトがすすめる高額報酬のフードに誘導しているだけのように思えてなりません。
特にカナガン・モグワン推しのサイトは、塩分を怖がらないで!と書きつつも「塩」が添加されているフードはダメだ!と攻撃しているサイトが多いですね。
詳しくはこちらで書かせていただいています。
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日本のドッグフードランキングサイトの真実
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何度も書いていますが、カナガン・モグワン自体は材料にこだわった質の高いフードだと考えています。
ただ販売手法に問題があると言われているため、嫌われフードになってしまっているのがとても残念です。
都合の良い情報ばかり書いてあるステマサイトが検索上位にきてしまうため、どうしても目にしがちですが、すごく調べられているんだなと感じる質の高いサイトもたくさんあります。
飼い主が情報の取捨選択をして、正しい知識を身に着けることが大切ですね!
ですが、愛犬のためにいろいろ調べた上でフードを選んでます。
あきらかに間違った情報でも、多くの人がそのサイトを見て信じてしまえば、それが真実かのようにどんどん広がっていく、なんだか怖いなと思って記事にしてみました。
認定証
ドッグヘルスアドバイザー資格を取得!
いわゆる「ペット検定」と呼ばれるもので、犬の健康をもっと知ろう!楽しく学ぼう!と言う趣旨の資格で誰でも取れます。
自宅受験もできるので、興味があればチャレンジしてみてください。 →ペット検定とは